会社に対する損害賠償請求とは
会社に対して損害賠償が可能なケースについて
①二つの事故パターン
作業中に生じた労働災害は、大きく分けて、「他の従業員の不注意によって怪我をした場合」と、「自分一人で作業中に怪我をした場合」に分かれます。
「他の従業員の不注意によって怪我をした場合」とは、例えば、他の従業員がフォークリフトで作業をしていたところ、被害者の存在に気付かずにフォークリフトで被害者を轢いてしまった場合、他の従業員がうっかり上から物を落とし、下にいた被害者に当たってしまった場合など、第三者の不注意が直接の原因で負傷をした場合です。
「自分一人で作業中に怪我をした場合」とは、例えば、プレス機で作業中に誤って手を挟んでしまった場合や、建設現場で足場の移動中に落下した場合などです。
②他の従業員の不注意によって怪我をした場合
「他の従業員の不注意によって怪我をした場合」であれば、比較的容易に会社に対して損害賠償請求が可能です。
会社は、従業員が業務中の不注意によって別の従業員(被害者)に怪我をさせた場合、使用者責任(民法715条)に基づいて、被害者に対して賠償責任を負うことになるからです。
この場合は③の場合と比較的して、会社も話し合いの段階から責任を認めることが多いです。
なお、使用者責任(民法715条)に基づく請求の場合、時効が5年(2020年3月31日までに発生した労働災害の場合は3年)ですのでご注意ください(後遺障害関係の損害は症状固定時から5年で時効です)。
また、使用者責任に基づく損害賠償請求と同時に会社に対して安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求が可能な場合は、時効は5年(2020年3月31日までに発生した労働災害の場合は10年)です。
③自分一人で作業中に怪我をした場合
「自分一人で作業中に怪我をした場合」は、会社に対して安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求をすることになります。
「自分一人で作業中に怪我をした場合」は、②の場合と比べると、会社が「自損事故であるため会社には責任がない」と請求を拒否するケースが多いです。
例えば、会社の工場で階段を下りている時に、階段に安全面での不具合等がなかったにもかかわらず、被害者が滑って転倒したというケースでは、会社に対して安全配慮義務違反を問うことは困難だと思われます(ただ、業務中の事故であれば、労災は適用されますので、その点はご安心ください)。
会社が請求を拒否することが多い理由は、安全配慮義務の内容も、同義務に違反しているかどうかの判断も、状況によって様々だからです。
安全配慮義務は、労働契約法第5条において、「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする」と定められていますが、具体的な内容は、業種、作業内容、作業環境、被災者の地位や経験、当時の技術水準など様々な要素を総合的に考慮してその内容が決まります。
そのため、具体的な事故状況をお伺いしてからでないと、会社に対して安全配慮義務違反を問えるかどうかは分かりません。
もっとも、「教育不足が原因で受傷した」または「会社の管理支配する場所で、会社から提供された機械や道具が原因で受傷した」場合には、安全配慮義務違反を問いやすいと言えます。
また、労働者の安全対策として「労働安全衛生法」と「労働安全衛生規則」が定められておりますが、これらの法令に違反するような状況下で事故が起き場合は、安全配慮義務違反を問いやすいと言えます。
さらに、重大事故で労働基準監督署が災害調査を行い、その結果、法令違反があるとして是正勧告などを会社が受けた場合や、警察・検察が捜査をして会社や担当者が刑事処分を受けた場合は、高い確率で会社に対して安全配慮義務違反を問うことが可能です。
会社に対して安全配慮義務違反を問えるかご不明な方は、一度、ご相談ください。
具体的な手続き
会社に対して損害賠償請求が可能性があると判断した場合、まずは資料の収集と作成をしていただくことになります。
事故状況が分かる写真等の資料があれば良いですが、入手が困難な場合は、ひとまずなくても構いません。
また、事故状況を説明するメモをご作成ください。
次に、労災の資料を取り寄せていただくことになります。
労災に提出した資料や労災が決定した内容の資料については、当該労働基準監督署を管轄する「労働局」で「保有個人情報公開請求」という制度に基づいてコピーを入手することが可能です。
なお、労災の資料の入手には、申請してから1か月ほどかかります。
以上のような資料をもとに、事故状況から請求の可否を判断した上で、認定された後遺障害の内容も考慮して、具体的な損害額を計算します。
その後、内容証明郵便で会社に通知書を送ります。
その上で交渉を重ね、話し合いで解決できなければ、訴訟提起となります。