はじめに
金属製品製造業や金属加工業では、重量機械、鋭利な工具、高温、有害物質など、労働者の安全を脅かす潜在的な危険性が内在しています。
製造業全体における統計ですが、厚生労働省の令和5年度の統計によれば、日本全国の全産業における労働災害による死亡者数は755人であり、そのうち製造業における死亡者数は138人を占めています。建設業、陸上貨物運送事業とともに、死亡事故、重篤な怪我が発生する事故が多い業種です。
この記事では、金属製品製造業や金属加工業で起こりやすい事故、それによる怪我や後遺障害、そして会社の責任について、法的な観点から分かりやすく解説いたします。
金属製品製造業や金属加工業における事故の種類
金属製品製造業や金属加工業では多様な事故が発生する可能性がありますが、代表的なものとしては、以下のようなものが挙げられます。
機械等へのはさまれ・巻き込まれ
プレス機、旋盤、フライス盤、ロール機、マニシングセンターなどの回転部分や可動部分に手や衣服が巻き込まれる、または挟まれる事故。
転倒・墜落
床にこぼれた油や水、散乱した材料、段差などで足を滑らせて転倒する事故や高所での作業中に足場から墜落する事故。
切創・裂傷
金属板の端材、加工中の鋭利な部分、工具(グラインダー、カッター等)などで手や指、腕などを切ってしまう事故。
火傷(やけど)
高速カッターで切断中や溶接作業中の火花、高温の金属材料、炉、加熱された機械などに接触することによる火傷。
重量物の落下・衝突、崩壊・倒壊
クレーンでの運搬中や手作業での移動中の材料や製品、また、積んであったり立て掛けてある重量のある材料や製品が落下、倒壊してきて下敷きになる等の事故。
飛来物・落下物
グラインダー作業中の破片、機械の部品、工具や材料などが飛んできたり落下してくることによる事故。
有害物質にさらされる(曝露)
有機溶剤中毒、溶接ヒュームによる健康障害、酸・アルカリ、シアン化合物などのガス吸入、熱処理工程での有害ガス発生等により、呼吸器疾患(じん肺など)、皮膚や眼への薬傷、皮膚炎、経口摂取による中毒など。
これらの事故は、ご本人のミスや油断によって発生することもあります。
しかし、そのような場合でも、100%ご本人のミスだけで発生したのではなく、現場の環境や機械の安全対策不備、作業手順の問題、安全教育の不足など、ご本人のミス以外の、様々な要因が複合して発生することも少なくありません。
負傷しやすい部位や怪我の種類
金属製品製造業や金属加工業で特に負傷しやすい部位と怪我の種類は以下の通りです。大きな力、エネルギーを有する機械、重量物を扱うことから、いずれも大きな怪我になる傾向にあります。
身体の部位 | 怪我の種類 |
---|---|
手指・腕や足・脚 | 切断、骨折、脱臼、挫滅創(強く押しつぶされる怪我)、神経損傷(麻痺、しびれ)、腱断裂、切創、裂傷、火傷 |
頭部や顔面 | 打撲、脳挫傷、頭蓋骨骨折、顔面骨折、裂傷、火傷 |
体幹(胸部・腹部・背部) | 肋骨骨折、脊椎骨折、内臓損傷、打撲、挫傷 |
眼 | 異物混入による角膜損傷、火花や化学物質による火傷(薬傷)、打撲による眼球破裂、失明 |
皮膚 | 広範囲の火傷、薬傷、挫創、剥皮創(皮膚が剥がれる怪我) |
呼吸器系 | じん肺、金属ヒューム熱、化学物質による肺障害 |
障害等級認定について
後遺障害とは?
これらの怪我は、治療に長期間を要するだけでなく、残念ながら完治しないこともあります。
事故による怪我の治療を続け、これ以上治療しても改善が見込めない状態(症状固定)になった後も、身体や精神に残ってしまった症状のことを「後遺障害」と呼びます。
労災保険では、この後遺障害の程度に応じて、第1級(最も重い)から第14級(最も軽い)までの等級が定められています。
そして、後遺障害の等級が認定されると、その等級に応じた「障害(補償)給付」(年金または一時金)が支給されます。
早めにご相談ください
事故からある程度の期間が経過したり、会社や労働基準監督署から治療費の打ち切りについて打診があったりして、そろそろ症状固定の時期かと思われたら、一度、弁護士にご相談ください。
というのも、適切な後遺障害等級の認定を受けるためには、症状固定の時期の見極めや、医師による後遺障害診断書の正確な記載、そしてご自身の症状を的確に主張することが極めて重要です。等級が一つ違うだけで、受け取れる補償額が大きく変わってきます。
早い段階でご相談いただければ、より適正な等級認定が受けられるよう、弁護士が過去の事例や経験を踏まえてアドバイスすることが可能です。
会社への損害賠償請求について
労災保険からの給付は、治療費や休業中の生活補償、後遺障害に対する補償など、被災された労働者にとって不可欠なものです。必ず、労災申請をされることをお勧めします。
ただ、労災保険からの給付だけでは、事故によって被った全ての損害(特に精神的な苦痛に対する慰謝料や逸失利益など)が填補されるわけではありません。
これらの損害は、加害者や会社に対して損害賠償請求をすることで初めて、賠償してもらえるものです。
そして、労災保険からの給付とは別に、会社に対して損害賠償を請求するには、事故の原因が会社の安全管理体制の不備にある場合、つまり会社が労働者の生命や身体の安全を確保するために必要な措置を怠ったと認められる必要があります(会社の安全配慮義務違反)。
具体的には、事故当時に以下のような状況があると、会社の安全配慮義務違反にあたる可能性があります。
機械の安全装置の不備・未設置
法律で義務付けられている安全カバーやインターロック(安全装置作動中は機械が動かない仕組み)などが設置されていなかった、または機能していなかった。
不十分な安全教育・訓練
機械の正しい操作方法や危険性、安全手順についての教育や訓練が十分に行われていなかった。
危険な作業手順の指示・黙認
安全でない作業方法を指示された、または危険な状態を知りながら放置されていた。
作業環境の不備
作業場の整理整頓が不十分で転倒の危険があった、必要な保護具(手袋、保護メガネ、安全靴など)が支給されていなかった、換気が不十分だった。
人員不足による過重労働
無理な人員配置により、一人当たりの負担が過重になっていた。
定期点検・メンテナンスの懈怠
機械や設備の点検・整備が適切に行われていなかった。
会社に対して損害賠償請求を行い、労災保険では支払われない慰謝料や後遺障害による将来の収入減少分(逸失利益)などの賠償をしてもらうには、上記の安全配慮義務違反が認められるかどうかが、ポイントとなってきます。
労災事故の場合、どうしてもご自身のミスに目が行ってしまいがちですが、事故は様々な複合的な要因により発生するものです。
ご自身だけでなく、会社にも事故原因があるのではないか、むしろ会社側の責任ではないかと思われる場合は、弁護士にご相談いただけますと大まかな見通しをお示しできます。
会社へ損害賠償請求をするかどうか決めかねている方も、是非一度ご相談ください。
おわりに
金属製品製造業や金属加工業での事故による怪我は、怪我が大きくなることが多く、被災された方の人生に大きな影響を与えます。
労働災害の補償やその手続きは複雑で、一般の方が理解しづらいとお感じになる部分も少なくありません。ましてや、お怪我をされて治療に専念されている状況で、後遺障害や会社への損害賠償請求について、深く調べて検討されるのは非常に難しいかと存じます。
弁護士にご依頼いただくことで、過去の裁判例や文献を調査し、これまでの経験を踏まえて、どの程度の後遺障害等級になるか、また、会社側に責任があるのかどうかをより正確に判断し、会社側と対等に交渉することが可能です。
「弁護士に依頼するかについては未定」という方も、お早めにご相談いただくことで、弁護士は具体的な事情を踏まえたアドバイスができますので、ご不安の解消や、今後の方針を立てるお役に立てるかと存じます。
労働災害に遭われて、お悩みの方はぜひ一度、お気軽にご相談ください。