はじめに
倉庫や工場、運送業の拠点など、多くの荷役作業の現場で、フォークリフトは不可欠な存在です。しかし、その利便性の裏側で、フォークリフトが関わる労働災害は後を絶ちません。
厚生労働省の統計によれば、フォークリフトが原因の労働災害は、毎年約2,000件発生しており、年間20名から30名以上の方が亡くなっています。 この記事では、フォークリフトによる労働災害の実情と、事故に遭われた方がとりうる法的な手段(労災保険の申請、損害賠償請求)、そして、弁護士にご依頼いただくことのメリットについて、詳しく解説します。
1.フォークリフトによる労働災害の実情
フォークリフト事故は、「少しぶつかっただけ」では済まないケースが多いのが特徴です。
骨折や内臓損傷、手足の切断といった深刻な怪我につながり、長期間の治療やリハビリを余儀なくされたり、最悪の場合、命を落とされたりするケースも少なくありません。
代表的な事故の型を解説します。
激突され(ひかれ事故)
フォークリフトの走行エリアと人の通路が分かれていない職場で多発します。荷物を積んだフォークリフトは前方や後方の視界が悪く、運転者が歩行者に気づかずに衝突するケースです。
はさまれ・巻き込まれ
フォークリフトと壁や柱、他の機械などに挟まれる事故です。
運転者がエンジンをかけたまま車両を離れたところフォークリフトが自然に動き出して(逸走して)作業員が挟まれる事故、狭い場所で作業中にフォークリフトの操作を誤ったため近くにいた作業員が挟まれる事故等が発生しています。
転倒(下敷き事故)
発生頻度は高くないものの、一度起これば死亡に直結する極めて危険な事故です。
許容荷重を超える荷物を運んだり、荷物を高い位置に上げたまま急旋回したり、偏荷重の状態で作業をすることで、バランスを崩して転倒します。
運転手がシートベルトを着用していない場合は、転倒の衝撃で車外に投げ出され、フォークリフトと地面の間に挟まれるケースが後を絶ちません。
墜落・転落
例えば、照明器具を交換するため、フォークリフトで持ち上げたパレットの上に作業員を乗せて作業させていたところ、作業員が転落するなどの事故が発生しています。
2.なぜフォークリフト事故は起こるのか?
事故が発生する背景には、怪我に遭われた方の単なる「運転ミス」や「不注意」だけでは片付けられない、会社の安全管理体制の問題が潜んでいることがほとんどです。
先ほどの事例における直接の原因は、個々の労働者の「危険な運転操作」や「安全ルールの軽視」といった事情です。
しかし、たった一度の「危険な運転操作」や「安全ルールの軽視」により重大事故が発生する確率は極めて小さいものです。
その裏には、会社全体として、そのような危険作業環境の常態化、黙認があり、会社の安全管理体制にも問題があることがほとんどです。
会社には、労働者が安全に作業できるよう、危険を予測し、機械を適切に整備し、正しい作業方法を教育・徹底する義務があります。
もし、上記のような状況で被災されたのであれば、それは会社の安全対策が不十分であった可能性が考えられます。
3.まずは「労災保険」の申請を
他の記事で詳しく記載しているとおり、労災保険は、業務中の事故やケガに対して適用される公的な保険制度で、労働者が一定の補償を受けられるようになっています。
会社の規模や雇用形態に関係なく、正社員はもちろん、パートやアルバイトなどの非正規雇用の労働者にも適用されます。
会社が協力的でない場合も申請可能です。
主な補償内容は以下の通りです。
•療養補償給付(治療費の補償。病院での自己負担は原則不要)
•休業補償給付(労災による休業期間中の給与の約80%が支給される)
•障害補償給付(後遺障害が残った場合、その程度に応じた補償金が支給される)
•介護補償給付(後遺障害で介護が必要になった場合の補償)
•遺族補償給付(死亡時に遺族へ補償金が支給される)
•葬祭料(労災事故で亡くなった場合、葬儀費用が支給される)
もし労災事故に遭ったら、まずは労災保険に申請をして、保険金の支給を受けられるべきです。
「会社に迷惑がかかるのでは…」「手続きが面倒なのでは…」といったご心配から労災申請をためらう方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、労災保険の利用は労働者の正当な権利であり、会社もこれに協力する義務があります。
また、申請手続きが複雑で分かりにくいと感じる場合でも、私たち弁護士がサポートいたしますのでご安心ください。
4.損害賠償請求について
労災保険からの給付は、治療費や休業中の所得の一部などを補償するものですが、精神的な苦痛に対する慰謝料や、後遺障害によって失われた将来の収入(逸失利益)の全額まではカバーされません。
これらの損害について会社から十分な賠償を受けるためには、加害者または会社に対して損害賠償請求をする必要があります。
加害者に対する損害賠償請求
フォークリフトの事故の場合、動いているフォークリフトに衝突される、挟まれるといった事故が多く、その場合、直接の加害者として運転手がいます。
そのため、運転手(加害者)に損害賠償請求し、また、会社には使用者としての責任追及をすることになります(民法715条)。
この場合は、後述する会社の安全配慮義務違反は大きな争点とはなりません。
加害者である運転手が、フォークリフトの運転操作に過失が認められるかどうか、お怪我をされた方に何らかの過失が認められるかが問題となります。
加害者がいない場合は会社に対する損害賠償請求
ご自身が運転中に労災事故が発生した場合、先ほどの事例であれば、フォークリフトが転倒して下敷きになった場合などは、加害者がいませんので、会社に対して、「安全配慮義務違反」があったことを理由に損害賠償請求をすることになります。
安全配慮義務とは?
会社(使用者)は、労働者が安全で健康に働くことができるように、必要な配慮をする義務を負っています(労働契約法第5条)。
フォークリフト作業に伴う事故に関しては、以下のような場合に、会社の安全配慮義務違反が認められる可能性があります。
・技能講習を修了していない無資格者に運転させていた
・フォークリフトの点検・検査を怠っていた
・用途外使用(人の昇降に使う、重量オーバーの物を運ぶなど)を指示又は黙認していた
・通路が狭く、見通しが悪い、路面が凸凹しているといった危険な状態を改善せずに作業させていた
・作業計画に不備があったり、過度な業務量を求めていた
これらの事情に心当たりがある場合は、仮に加害者がいなくても、会社に対して安全配慮義務違反を根拠とした損害賠償請求ができる可能性が高いと考えられます。
5.弁護士に依頼するメリット
事故後の大変な時期に、ご自身やご家族だけで法的な手続きや会社との交渉を進めるのは、心身ともに大きな負担となります。弁護士にご依頼いただくことで、次のようなサポートが可能です。
①適正な後遺障害等級の獲得をサポート
煩雑な手続きのご説明、お手伝いし、また、後遺障害診断書の作成を医師に依頼する際のポイントをアドバイスしたり、必要な検査結果を収集したりするなど、適正な等級認定を得るためのサポートを行います。
②損害賠償請求を代行
加害者や会社に対する損害賠償請求に向けて、証拠収集から、賠償額の計算、会社との交渉や裁判まで、専門家としてサポートします。
③精神的な負担の軽減
お怪我の治療やリハビリに専念されている間、会社とのやり取りや法的手続きの一切を弁護士に任せることができます。「専門家が対応してくれている」という安心感は、精神的な負担を大きく和らげます。
もし、あなたが業務中にフォークリフト事故に遭われたり、ご家族がそのような事故で苦しんでいらっしゃるなら、「自分の不注意もあったから」「会社に言い出しにくい」などと一人で抱え込まず、できるだけ早く私たち弁護士にご相談ください。
私たちは、あなたの正当な権利を守るため、最善の解決策をご提案いたします。
ご相談は無料です。まずはお気軽にご連絡ください。